« これが犯行現場だ | トップページ | 縁のお話し »

2017年5月10日 (水)

隔りに架かる橋

私が蘭を始めて3年目の頃、花弁に僅かに色を感じる個体と出逢いました。
様々な角度から覗き込み、花弁を何度も透かし、モヤシ咲きでもなく、日焼けでもなく、霜焼けでもない…と見る目も無いのに悩まされたのです。
Img_6055
この内から照らすような、滲み出るような雰囲気は何だったのだろう。

もう8年ほど前の事で、あの頃は山の蘭が鹿やウサギによる食害で深刻な目に遭っている事にまだ気付いていませんでした。そのため、受粉して実生を出して、もっと変わった仲間を増やしてほしいと、私はその個体を山に残しました。
先日、本当の色花を山で目にして以来、その8年ほど前の出来事を思い起こす機会が増え、しまいには居ても立っても居られずに数年ぶりにその山に向かうことになりました。しかし、もう鹿の餌になっていておかしくない歳月が過ぎていました。


Img_6005
崖の多い危険な山です。正直、久しぶりになったのはキツくて避けていたのも理由のひとつです。。
登り始めてしばらく、斜面を間違えたかと思って足を止めました。春蘭が見当たらないのです。山の景色は面白いほど覚えていました。景色は変わっていないのに、春蘭の姿が見えない。不安を背負い、息を枯らして見つけた個体はどれもかろうじて埋もれた芋から顔を出す弱々しい姿。それすらも齧られて、獣の餌になるために生えているようでした。
消えた春蘭の代わりに、山は鹿とウサギの糞だらけでした。これほどまで糞だらけの山は歩いた事がありません。何度もそれの上に手をつきそうになりましたし、道中、私に気付いて谷を駆け降りる鹿を数頭みかけました。

約4時間の散策で花を見れたのは僅か5株。
一過性と思いますが左副弁に縞が出ているものがありました。
Img_6007
花の付いている個体は食害を逃れるように安全な場所に根付いています。

Img_6006
私は人間なので木につかまったり猿のように立ち止まれますが、鹿にとっては崖のへりなどは立ち止まっていられないのですね。
始めてここを歩いたときは目移りするほど花を見れました。
食害増加の原因は見当が付くのですが、それは人の暮らしを守るためのものであり、やむを得ない事です。

例の個体があった付近を当時を懐かしみながらしみじみと歩きました。
Img_6056
そこにはやはり齧られて、一篠にも満たないような個体がいくつかあり、それらは来る年も来る年も獣に食われ、その度に弱々しく新芽を出す事の繰り返しで、そんな風にしかこの山では存在出来ないのでしょう。溜め息が漏れます。哀れみを感じつつ、そんな姿に人間界を重ねてしまうのでした。これは主に私が貧乏人だからですね!お給料が出ても税金税金保険料、家賃光熱費の支払い支払いまた支払いでいつになったら蘭小屋を持てるのでしょうかね!…溜め息が漏れます。


陽も暮れそうなので帰ろうとしたところ、悪い癖であと少しと帰路とは反対に歩を進めてしまいました。
急斜面の窪みに深く深く積もった落ち葉の床に実生が出ていました。
Img_6054
それは散り斑の坪となっていました。これらも大きく育てば鹿に見つかってしまうのでしょう。

Img_6008

Img_6009
外葉に中透け状の散り斑が入っていました。


Img_6010
一年木となり、斑は暗くなっているものの袴に目を凝らすと散り斑を感じ取ることが出来ます。


比較的大きく二篠立ちになっている個体もありました。
Img_6013

Img_6014

Img_6015
ところどころ糸覆輪状にも出ています。

Img_6016
細く縞が流れていたり、まだ迷っているのでしょうか。


Img_6011
葉先がかぎ爪状になって止め葉が詰まってしまっています。

Img_6012
小さな体より太い根を覗かせていました。



山と人の世。
Img_6018
その隔りに架かる橋を渡ります。

いつか橋が消えてしまうまで、どれだけの夢をみられるのでしょう。





ご笑覧ありがとうございました。




« これが犯行現場だ | トップページ | 縁のお話し »

山の蘭花草姿」カテゴリの記事

コメント

楢の木は炭焼き,椎茸栽培に伐採、切株から再生。里山はいつも明るく、春蘭の繁栄する環境だった。

素敵な世界!
人が山の一部だったことを
忘れないようにしなければ!

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1661585/70517650

この記事へのトラックバック一覧です: 隔りに架かる橋:

« これが犯行現場だ | トップページ | 縁のお話し »